Paul McCartney-SPEED OF SOUND SESSIONS 【4CD】 [mccd-531/532/533/534]
Paul McCartney-SPEED OF SOUND SESSIONS 【4CD】
[mccd-531/532/533/534]
販売価格: 6,500円(税込)
在庫あり
商品詳細
マニア必携Mクローデル・レーベルより、ウイングスのスピードオブサウンドのセッションを収録したタイトルがリリースになります。以前に同レーベルからトレバー・ジョーンズ・テープの一環として1枚物のタイトルがリリースされていましたが、本作はそれらを含む、さらに充実させた内容で、実に4枚組のボリュームにてスピードオブサウンドのセッション関連音源を網羅。まさに決定盤に相応しい内容となっています。
【レコーディングまで】
ポールは、自身がマルチプレイヤーであり、レコーディングにおいては全て自分で演奏することも可能なくらい多才なアーティストです。それをあえてバンドを結成し、また各楽器をそれぞれのメンバーに担わせたのは、ひとえにウイングスがライヴを目的としたバンドであったからに他なりません。ウイングスとはポールがライヴをするためのバンドであったのです。そして1972年のバンド結成以来、地道にステージ活動を続け、いよいよ機が熟したのが1975年です。ヒット・シングルにヒット・アルバムを擁し、完成度の高いステージに耐えうるバンド・メンバーに恵まれ、そして何よりポール本人の充実度がこの頃にピークを迎えます。まさに、いつ大規模なツアーに出るか? 今でしょ!というタイミング。当時のニューアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」をリリース後、欧州を皮切りにオーストラリア、英国などをまわる初のワールドツアーを敢行します。余談になりますが、その中には中止になったものの日本も当初の予定に含まれていました。
【2つのワールドツアー】
この1975年ウイングスのワールドツアーは各地で大盛況で、ポールが手塩にかけて育ててきたバンドが世界に認めらた瞬間に、本人も非常に満足したと伝えられます。そしてさらにステップ・アップを図ります。自身が結成したウイングスが、ビートルズと比肩し得るバンドになるために必要なのは、アメリカでの成功でした。そしていよいよ1976年の全米ツアーが発表になったのです。かつてビートルズがそうであったように、ショウビジネスの本場アメリカで成功してこそ本当の成功といえるのは、ポール自身が良く理解していたことでしょう。1975年のセットリストも非常に隙のない完成度の高いものでしたが、ポールはさらにダメ押しをするかのように、ツアーの合間を縫って平行してスタジオでレコーディングを行ない、全米ツアーの前に新たなアルバムを発表します。それが「スピードオブサウンド」です。つまり一般的には1975年と1976年の足掛け2年に渡ってワールドツアーが行なわれたと認識されていますが、実はこの1975年と1976年のツアーは異なる位置づけがなされるべきで、その大きな違いは、この2つツアーの合間にリリースされた「スピードオブサウンド」収録の新曲が、1976年のツアーに組み入れられたという点です。しかもそれはただ新曲を披露したというにとどまらず、新曲それ自体がコンサートのハイライトになったという点でも特筆すべき違いであると言えます。
先述のように、ポールにとって全米ツアーはどうしても成功させたいビッグ・イベントでした。ビートルズの一員として全米でコンサートを行なったのが1966年。アメリカのファンにとってポールのステージは10年ぶりということになります。どうしても成功しなければいけない、そのために更にニューアルバムをリリースしてダメ押しをしておきたい。そのような意欲作が「スピードオブサウンド」なのです。事実、ツアーの成功と相まってアルバムもヒット、ビルボード年間チャートでもシングル部門で首位を奪取した「心のラブソング」他、「幸せのノック」も全米2位の大ヒットとなり、またコンサートで印象的だった「愛の証」もこのアルバムに収録されているなど、アルバムの成功とツアーの成功は不可分な関係にあると言えるでしょう。
【スピード・オブ・サウンド】
上記のように、アルバム「スピード・オブ・サウンド」はツアーを前提にしてレコーディングされたもので、いかにもポールらしい美しいメロディアスな曲もあれば、明らかにステージで演奏することを前提として作られた楽曲まで、多彩な曲がふんだんに盛り込まれていました。そして、このアルバムを特長づけるのは、バンドとしての一体感を求めて、ツアーではヴォーカルをとらなかったジョーイングリッシュを含め、バンド・メンバー全員のヴォーカル曲が収録されている点です。ジョーとリンダ以外のメンバーはステージでもヴォーカルをとっていますが、この二人にもあえてヴォーカルをとらせたところにポールの拘りが見え隠れします。実に11曲中5曲がポール以外のヴォーカルと、ビートルズのようなバンド全員が歌うイメージを意識しているかのような、バンドであることを強く全面に出したアルバムです。本作は、そのレコーディング・セッション音源より現存するすべての音源を網羅したタイトルになります。
【アルバム・セッション】
ディスク1と2はアルバム収録曲順に、デモ、アウトテイク、別バージョンなどを収録しています。「幸せのノック」はデモ音源、別ミックスなど全5バージョンを収録。歌詞はデモ段階でありながらほぼ完成していて、しかしながら伴奏がピアノのみということで、ポールが口で効果音を入れているのが興味深いところです。メロディと歌詞は出来ているのもの、アレンジが固まっていないようで、このように仮歌の段階で様々な効果音を口づさみ、後のアレンジの参考にするのではと推測されます。曲中に子供たちの声が入るのは、まさにホームレコーディングならでは。まるでその場の光景が目に浮かぶようです。「君がいないノート」はホーンがダビングされる前のベーシックトラック。「僕のベイビー」はまずデモから始まります。軽快なピアノのみのシンプルな演奏で、ポールは軽く口ずさむように歌っています。続いてテイク1は元々シンプルな曲であるためか、ほとんどリリース・バージョンと同じで、バッキング・ギターが合いの手のように入るアレンジは「レット・ミー・ロール・イット」を彷彿させます。エンディング部分がまだ完成しておらず、たどたどしいギターソロで強引に終わらせています。
ツアーにおいてはポールの絶叫ヴォーカルが印象的でコンサートでも歌われた「愛の証」はディスク1のハイライト。まず最初の3テイクがドラムスにレッド・ツェッペリンのジョンボーナムを配して行なわれたセッション音源。軽く合わせたような演奏で、いわゆるツェッペリンらしいドラムスではありませんが、この時の交流が、後のロケストラに繋がることを思うと、感慨深く思わざるを得ません。何よりジョンボーナムはウイングスの大ファンだったらしく、1976年全米ツアーでは、ほぼ毎公演、最前列に陣取りコンサートを楽しんでいたという話もあるくらいです。この時点では、まだアコースティックとコーラスからなる導入部がありません。次のウイングスでのセッション音源では付与されていることから、あのアコースティックと重層コーラスの導入部分は、後に加えられたものであることがわかります。そしてご存知の通り、コンサートでは再びこの導入部分がカットされたアレンジで演奏されました。
「ワイノ・ジュンコ」はカウントから始まるベーシックトラック。起伏の少ないジミーマッカローの平坦なヴォーカルは、残念ながらやはりギタリストとしての才能ほどヴォーカルでの貢献度はないように思えます。ディスク1最後は「やすらぎの時」のベーシックトラックです。
ディスク2はウイングス最大のヒット曲にして、この本作のハイライトとも言うべき「心のラヴソング」のセッションを収録しています。まず最初はピアノによるデモ音源。シンプルなピアノをバックにポールのヴォーカルが生々しいデモ音源で、サビ部分ではリンダのコーラスが無造作に挿入されています。こんな演奏でもメロディの美しさは隠すことが出来ず、この時点で既に名曲の雰囲気を醸しているのがさすがです。リリース・バージョンのような複雑なコーラス・ワークはまだ完成しておらず、主となるメロディとサビのコーラス部分のみの演奏が、今後どのように発展していくのか、その原石を垣間見るような感覚になります。「心のラヴソング」といえばコーラスと派手なホーンが印象的な曲ですが、ラフミックスとして収録されているのは、まだホーンなどがダビングされる前で、その部分をなんとポールがスキャットで歌っているという珍しくも興味深いバージョンです。続くベーシックトラックはほとんどベースとヴォーカルのみのバージョン。ポールのヴォーカルが生々しく耳元で歌ってくれているような、ファンにはたまらないバージョンです。その他、全8バージョンを収録しています。
「マスト・ドゥ・サムシング」はリリース・バージョンではジョー・イングリッシュが歌っていましたが、ここに収録されているのは、おそらくジョーに参考のためにガイド・ヴォーカルとしてポール自身が歌ったものです。突き抜けたかのような溌剌としたジョーのバージョンに比べ、ポールのヴォーカルは落ち着いて言葉を選ぶように穏やかに歌っているもので、曲の印象ががらりと変わっているのが興味深いところ。「やさしい気持ち」はアルバムのラストを飾る美しい曲。ここでは玉を転がすようなエレピの音色があまりに美しいデモ・バージョンを収録しています。
ディスク2の最後は、アルバム収録曲以外の関連音源を収録しています。ツアーリハでの「幸せのノック」、そしてツアー前にアメリカでアルバムを宣伝するラジオ・スポット、そして最後は、その全米ツアーのリハ―サル音源。短いながら「心のラヴソング」のホーン・セクションを奏でているのがわかります。
【映画「ROCK SHOW」】
ディスク3の前半は、映画「ロックショウ」に収録するための作業過程における同アルバム収録曲です。「スピード・オブ・サウンド」からは4曲がステージでライヴ演奏されています。実際に映画を見た人はわかると思いますが、ステージ通してミスひとつない演奏に驚かれた方も多かったのではないでしょうか。これはもちろん後から修正を施した結果であって、かように完璧な演奏で実際のステージが行なわれたわけでは勿論ありません。ここに収録の4曲は、そのヴォーカル・チェック用の音源でしょうか。余計なダビングやコーラスが希薄で、エコー感もなく、非常にドライな音像で収録されており、まるで目の前で歌っているかのような生々しい錯覚に襲われます。例えば「心のラヴソング」などは重層的に繰り返されるコーラスが、ここではポールの声を単独で聴くことができ、なるほど、こういう感じで実際に歌っていたのかというのがわかります。「愛の証」に至っては、あの迫力満点のポールの絶叫ヴォーカルが眼前に現れ、引き込まれること間違いなし。しかも楽器の音に隠れて聞こえなかった曲の合間の合いの手などもしっかり聞こえるからたまりません。
【アルバム・プロモーション&アドバンス・テスト・LP】
ディスク3の後半は、アルバム・リリース時に、アルバムのプロモーションのために出演したラジオ・プログラムを3種収録しています。当時エア・チェックされた貴重な音源で、しかも単にインタビューの合間に曲を流すといったありきたりのものではなく、内容的にも非常に興味深いものです。リリース前のアルバムを紹介するという趣旨の番組なので、まだアルバムそのものがプレスされておらず、アドバンスLPからの音源を流しているのが大きな特徴。しかも単なるインタビューではなく、おそらくスタジオで収録されたのでしょう、形式ばったものではなく、メンバー全員がそろったスタジオで、ラフな感じでワイワイと楽しくニューアルバムを紹介するという形式で収録されているのです。他のメンバーの笑い声や、茶々を入れている声も入っていれば、リンダが「心のラヴソング」を口ずさんだりしている様子なども収録されています。インタビューでは当時はまだまだ期待されていたであろうビートルズ再結成してライヴをやったら素晴らしいのではというものから、アルバム収録曲の解説など、多岐に渡ります。
【別ミックス】
ディスク4は、リアルタイムで制作されたものではなく、近年になって作られた別ミックスが収録されています。実際のコンサートでポールの過去の楽曲をリミックスしたサンプリング形式のBGMが開演前に会場に流されていたことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。おそらくポールの中でも特別な曲であろう「幸せのノック」と「心のラヴソング」の2曲は、実に数多くのリミックス・バージョンが制作されています。元の曲をこのような形でリ・ビルドするのは賛否両論あるかと思いますが、それとて作者ポール本人の意思ということであれば、ファンとしては受け入れなければなりません。詳細はジャケットのクレジットを参照してください。
【WINGS AT THE SPEED OF SOUND SESSIONS】
Mクローデルのスタジオ・セッション・シリーズは、1976年発表の「スピード・オブ・サウンド」のセッションを完全網羅。アルバム収録曲ごとのデモ、アウトテイク、別ミックス、当時のラジオ・スポット、映画「ロックショウ」用のチェック・トラック、そして貴重なテストプレスLPでニューアルバムを紹介するラジオ・プログラム、さらに最後は数多く制作された別ミックス集と、初登場音源を含む同アルバム関連の音源の集大成になります。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。
DISC ONE
LET 'EM IN
01. Demo
02. Promotional version mono
03. Promo edit- stereo
04. Promo edit- mono
05. Unreleased 1978 DCC master mix by Steve Hoffman
THE NOTE YOU NEVER WROTE
06. Basic Track, No Horns
SHE'S MY BABY
07. Demo
08. Take 1
09. Rough Mix, full take
BEWARE MY LOVE
JOHN BONHAM SESSION
10. Take 1 (partial backing track)
11. Take 2 (complete backing track)
12. Unknown Take with vocals
WINGS SESSION
13. Alternate Take
14. 45" single edit
WINO JUNKO
15. Rough Mix Alternate Early Take
TIME TO HIDE
16. Instrumental basic track
DISC TWO
SILLY LOVE SONGS
01. Demo
02. Rough Mix, No Strings & Horns, extra vocals
03. Basic Track, No Strings & Horns Final Mix
04. Piano + Horns overdubs Final Mix
05. Orchestra + Strings and Horns + Linda’s vocals overdub Final Mix
06. Promo edit- stereo
07. Promo edit- mono
08. Unreleased DCC 1978 master mix by Steve Hoffman
MUST DO SOMETHING ABOUT IT
09. Take 1 (Paul on vocals)
10. Take 2 (Paul on vocals)
WARM AND BEAUTIFUL
11. Demo
OTHER RARITIES
12. Pedal Steel Guitar message to Joe
13. Let 'Em In (October 1975 Tour Rehearsal)
14.‘Wings At The Speed Of Sound’ Original LP Commercial
15. Silly Love Songs (Wings Over America soundcheck)
DISC THREE
Rockshow post production mixes: (main vocal tracks)
01. Let’Em In
02. Time To Hide
03. Silly Love Songs
04. Beware My Love
Wings At The Speed Of Sound Promotional Interviews
Songs from Advance Test LP
March 20, 1976, Danish interview
05. Segment 1 /She’s My Baby
06. Segment 2/ Silly Love Songs
07. Segment 3
08. Segment 4 /Time To Hide
09. Segment 5
March 23, 1976, Danish interview
10. San Ferry Ann/ Segment 1
11. Time To Hide / Segment 2
12. Cook Of The House / Segment 3
13. Silly Love Songs / Segment 4
March 26, 1976, Capitol Radio, UK (recorded in Paris, France)
14. Intro / Let’ Em In
15. Interview /Wino Junko
16. Cook Of The House/ Interview
17. Beware My Love
18. Interview / Silly Love Songs
DISC FOUR
2001 Promotional Mixes
01. Let’ Em In (Special Remix)
02. Let’ Em In (Different Gear Remix)
03. Let’ Em In (Wingin It Mix)
Other Mixes
04. Let’ Em In /Inside Thing (Lulu Mix 2002)
05. Let’ Em In (Chris Holmes Mix 2013)
2001 Promotional Mixes
06. Silly Love Songs (Artful Dodger Mix)
07. Silly Love Songs (Loop Da Loop Main Mix)
08. Silly Love Songs (Loop Da Loop Radio Mix)
2004 Denmark Mixes
09. Silly Love Songs (Noir & Kruse Radio Edit)
10. Silly Love Songs (Noir & Kruse Extented Mix)
Other Mixes
11. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2010)
12. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2011-2012)
13. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2013-2015)
【レコーディングまで】
ポールは、自身がマルチプレイヤーであり、レコーディングにおいては全て自分で演奏することも可能なくらい多才なアーティストです。それをあえてバンドを結成し、また各楽器をそれぞれのメンバーに担わせたのは、ひとえにウイングスがライヴを目的としたバンドであったからに他なりません。ウイングスとはポールがライヴをするためのバンドであったのです。そして1972年のバンド結成以来、地道にステージ活動を続け、いよいよ機が熟したのが1975年です。ヒット・シングルにヒット・アルバムを擁し、完成度の高いステージに耐えうるバンド・メンバーに恵まれ、そして何よりポール本人の充実度がこの頃にピークを迎えます。まさに、いつ大規模なツアーに出るか? 今でしょ!というタイミング。当時のニューアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」をリリース後、欧州を皮切りにオーストラリア、英国などをまわる初のワールドツアーを敢行します。余談になりますが、その中には中止になったものの日本も当初の予定に含まれていました。
【2つのワールドツアー】
この1975年ウイングスのワールドツアーは各地で大盛況で、ポールが手塩にかけて育ててきたバンドが世界に認めらた瞬間に、本人も非常に満足したと伝えられます。そしてさらにステップ・アップを図ります。自身が結成したウイングスが、ビートルズと比肩し得るバンドになるために必要なのは、アメリカでの成功でした。そしていよいよ1976年の全米ツアーが発表になったのです。かつてビートルズがそうであったように、ショウビジネスの本場アメリカで成功してこそ本当の成功といえるのは、ポール自身が良く理解していたことでしょう。1975年のセットリストも非常に隙のない完成度の高いものでしたが、ポールはさらにダメ押しをするかのように、ツアーの合間を縫って平行してスタジオでレコーディングを行ない、全米ツアーの前に新たなアルバムを発表します。それが「スピードオブサウンド」です。つまり一般的には1975年と1976年の足掛け2年に渡ってワールドツアーが行なわれたと認識されていますが、実はこの1975年と1976年のツアーは異なる位置づけがなされるべきで、その大きな違いは、この2つツアーの合間にリリースされた「スピードオブサウンド」収録の新曲が、1976年のツアーに組み入れられたという点です。しかもそれはただ新曲を披露したというにとどまらず、新曲それ自体がコンサートのハイライトになったという点でも特筆すべき違いであると言えます。
先述のように、ポールにとって全米ツアーはどうしても成功させたいビッグ・イベントでした。ビートルズの一員として全米でコンサートを行なったのが1966年。アメリカのファンにとってポールのステージは10年ぶりということになります。どうしても成功しなければいけない、そのために更にニューアルバムをリリースしてダメ押しをしておきたい。そのような意欲作が「スピードオブサウンド」なのです。事実、ツアーの成功と相まってアルバムもヒット、ビルボード年間チャートでもシングル部門で首位を奪取した「心のラブソング」他、「幸せのノック」も全米2位の大ヒットとなり、またコンサートで印象的だった「愛の証」もこのアルバムに収録されているなど、アルバムの成功とツアーの成功は不可分な関係にあると言えるでしょう。
【スピード・オブ・サウンド】
上記のように、アルバム「スピード・オブ・サウンド」はツアーを前提にしてレコーディングされたもので、いかにもポールらしい美しいメロディアスな曲もあれば、明らかにステージで演奏することを前提として作られた楽曲まで、多彩な曲がふんだんに盛り込まれていました。そして、このアルバムを特長づけるのは、バンドとしての一体感を求めて、ツアーではヴォーカルをとらなかったジョーイングリッシュを含め、バンド・メンバー全員のヴォーカル曲が収録されている点です。ジョーとリンダ以外のメンバーはステージでもヴォーカルをとっていますが、この二人にもあえてヴォーカルをとらせたところにポールの拘りが見え隠れします。実に11曲中5曲がポール以外のヴォーカルと、ビートルズのようなバンド全員が歌うイメージを意識しているかのような、バンドであることを強く全面に出したアルバムです。本作は、そのレコーディング・セッション音源より現存するすべての音源を網羅したタイトルになります。
【アルバム・セッション】
ディスク1と2はアルバム収録曲順に、デモ、アウトテイク、別バージョンなどを収録しています。「幸せのノック」はデモ音源、別ミックスなど全5バージョンを収録。歌詞はデモ段階でありながらほぼ完成していて、しかしながら伴奏がピアノのみということで、ポールが口で効果音を入れているのが興味深いところです。メロディと歌詞は出来ているのもの、アレンジが固まっていないようで、このように仮歌の段階で様々な効果音を口づさみ、後のアレンジの参考にするのではと推測されます。曲中に子供たちの声が入るのは、まさにホームレコーディングならでは。まるでその場の光景が目に浮かぶようです。「君がいないノート」はホーンがダビングされる前のベーシックトラック。「僕のベイビー」はまずデモから始まります。軽快なピアノのみのシンプルな演奏で、ポールは軽く口ずさむように歌っています。続いてテイク1は元々シンプルな曲であるためか、ほとんどリリース・バージョンと同じで、バッキング・ギターが合いの手のように入るアレンジは「レット・ミー・ロール・イット」を彷彿させます。エンディング部分がまだ完成しておらず、たどたどしいギターソロで強引に終わらせています。
ツアーにおいてはポールの絶叫ヴォーカルが印象的でコンサートでも歌われた「愛の証」はディスク1のハイライト。まず最初の3テイクがドラムスにレッド・ツェッペリンのジョンボーナムを配して行なわれたセッション音源。軽く合わせたような演奏で、いわゆるツェッペリンらしいドラムスではありませんが、この時の交流が、後のロケストラに繋がることを思うと、感慨深く思わざるを得ません。何よりジョンボーナムはウイングスの大ファンだったらしく、1976年全米ツアーでは、ほぼ毎公演、最前列に陣取りコンサートを楽しんでいたという話もあるくらいです。この時点では、まだアコースティックとコーラスからなる導入部がありません。次のウイングスでのセッション音源では付与されていることから、あのアコースティックと重層コーラスの導入部分は、後に加えられたものであることがわかります。そしてご存知の通り、コンサートでは再びこの導入部分がカットされたアレンジで演奏されました。
「ワイノ・ジュンコ」はカウントから始まるベーシックトラック。起伏の少ないジミーマッカローの平坦なヴォーカルは、残念ながらやはりギタリストとしての才能ほどヴォーカルでの貢献度はないように思えます。ディスク1最後は「やすらぎの時」のベーシックトラックです。
ディスク2はウイングス最大のヒット曲にして、この本作のハイライトとも言うべき「心のラヴソング」のセッションを収録しています。まず最初はピアノによるデモ音源。シンプルなピアノをバックにポールのヴォーカルが生々しいデモ音源で、サビ部分ではリンダのコーラスが無造作に挿入されています。こんな演奏でもメロディの美しさは隠すことが出来ず、この時点で既に名曲の雰囲気を醸しているのがさすがです。リリース・バージョンのような複雑なコーラス・ワークはまだ完成しておらず、主となるメロディとサビのコーラス部分のみの演奏が、今後どのように発展していくのか、その原石を垣間見るような感覚になります。「心のラヴソング」といえばコーラスと派手なホーンが印象的な曲ですが、ラフミックスとして収録されているのは、まだホーンなどがダビングされる前で、その部分をなんとポールがスキャットで歌っているという珍しくも興味深いバージョンです。続くベーシックトラックはほとんどベースとヴォーカルのみのバージョン。ポールのヴォーカルが生々しく耳元で歌ってくれているような、ファンにはたまらないバージョンです。その他、全8バージョンを収録しています。
「マスト・ドゥ・サムシング」はリリース・バージョンではジョー・イングリッシュが歌っていましたが、ここに収録されているのは、おそらくジョーに参考のためにガイド・ヴォーカルとしてポール自身が歌ったものです。突き抜けたかのような溌剌としたジョーのバージョンに比べ、ポールのヴォーカルは落ち着いて言葉を選ぶように穏やかに歌っているもので、曲の印象ががらりと変わっているのが興味深いところ。「やさしい気持ち」はアルバムのラストを飾る美しい曲。ここでは玉を転がすようなエレピの音色があまりに美しいデモ・バージョンを収録しています。
ディスク2の最後は、アルバム収録曲以外の関連音源を収録しています。ツアーリハでの「幸せのノック」、そしてツアー前にアメリカでアルバムを宣伝するラジオ・スポット、そして最後は、その全米ツアーのリハ―サル音源。短いながら「心のラヴソング」のホーン・セクションを奏でているのがわかります。
【映画「ROCK SHOW」】
ディスク3の前半は、映画「ロックショウ」に収録するための作業過程における同アルバム収録曲です。「スピード・オブ・サウンド」からは4曲がステージでライヴ演奏されています。実際に映画を見た人はわかると思いますが、ステージ通してミスひとつない演奏に驚かれた方も多かったのではないでしょうか。これはもちろん後から修正を施した結果であって、かように完璧な演奏で実際のステージが行なわれたわけでは勿論ありません。ここに収録の4曲は、そのヴォーカル・チェック用の音源でしょうか。余計なダビングやコーラスが希薄で、エコー感もなく、非常にドライな音像で収録されており、まるで目の前で歌っているかのような生々しい錯覚に襲われます。例えば「心のラヴソング」などは重層的に繰り返されるコーラスが、ここではポールの声を単独で聴くことができ、なるほど、こういう感じで実際に歌っていたのかというのがわかります。「愛の証」に至っては、あの迫力満点のポールの絶叫ヴォーカルが眼前に現れ、引き込まれること間違いなし。しかも楽器の音に隠れて聞こえなかった曲の合間の合いの手などもしっかり聞こえるからたまりません。
【アルバム・プロモーション&アドバンス・テスト・LP】
ディスク3の後半は、アルバム・リリース時に、アルバムのプロモーションのために出演したラジオ・プログラムを3種収録しています。当時エア・チェックされた貴重な音源で、しかも単にインタビューの合間に曲を流すといったありきたりのものではなく、内容的にも非常に興味深いものです。リリース前のアルバムを紹介するという趣旨の番組なので、まだアルバムそのものがプレスされておらず、アドバンスLPからの音源を流しているのが大きな特徴。しかも単なるインタビューではなく、おそらくスタジオで収録されたのでしょう、形式ばったものではなく、メンバー全員がそろったスタジオで、ラフな感じでワイワイと楽しくニューアルバムを紹介するという形式で収録されているのです。他のメンバーの笑い声や、茶々を入れている声も入っていれば、リンダが「心のラヴソング」を口ずさんだりしている様子なども収録されています。インタビューでは当時はまだまだ期待されていたであろうビートルズ再結成してライヴをやったら素晴らしいのではというものから、アルバム収録曲の解説など、多岐に渡ります。
【別ミックス】
ディスク4は、リアルタイムで制作されたものではなく、近年になって作られた別ミックスが収録されています。実際のコンサートでポールの過去の楽曲をリミックスしたサンプリング形式のBGMが開演前に会場に流されていたことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。おそらくポールの中でも特別な曲であろう「幸せのノック」と「心のラヴソング」の2曲は、実に数多くのリミックス・バージョンが制作されています。元の曲をこのような形でリ・ビルドするのは賛否両論あるかと思いますが、それとて作者ポール本人の意思ということであれば、ファンとしては受け入れなければなりません。詳細はジャケットのクレジットを参照してください。
【WINGS AT THE SPEED OF SOUND SESSIONS】
Mクローデルのスタジオ・セッション・シリーズは、1976年発表の「スピード・オブ・サウンド」のセッションを完全網羅。アルバム収録曲ごとのデモ、アウトテイク、別ミックス、当時のラジオ・スポット、映画「ロックショウ」用のチェック・トラック、そして貴重なテストプレスLPでニューアルバムを紹介するラジオ・プログラム、さらに最後は数多く制作された別ミックス集と、初登場音源を含む同アルバム関連の音源の集大成になります。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。
DISC ONE
LET 'EM IN
01. Demo
02. Promotional version mono
03. Promo edit- stereo
04. Promo edit- mono
05. Unreleased 1978 DCC master mix by Steve Hoffman
THE NOTE YOU NEVER WROTE
06. Basic Track, No Horns
SHE'S MY BABY
07. Demo
08. Take 1
09. Rough Mix, full take
BEWARE MY LOVE
JOHN BONHAM SESSION
10. Take 1 (partial backing track)
11. Take 2 (complete backing track)
12. Unknown Take with vocals
WINGS SESSION
13. Alternate Take
14. 45" single edit
WINO JUNKO
15. Rough Mix Alternate Early Take
TIME TO HIDE
16. Instrumental basic track
DISC TWO
SILLY LOVE SONGS
01. Demo
02. Rough Mix, No Strings & Horns, extra vocals
03. Basic Track, No Strings & Horns Final Mix
04. Piano + Horns overdubs Final Mix
05. Orchestra + Strings and Horns + Linda’s vocals overdub Final Mix
06. Promo edit- stereo
07. Promo edit- mono
08. Unreleased DCC 1978 master mix by Steve Hoffman
MUST DO SOMETHING ABOUT IT
09. Take 1 (Paul on vocals)
10. Take 2 (Paul on vocals)
WARM AND BEAUTIFUL
11. Demo
OTHER RARITIES
12. Pedal Steel Guitar message to Joe
13. Let 'Em In (October 1975 Tour Rehearsal)
14.‘Wings At The Speed Of Sound’ Original LP Commercial
15. Silly Love Songs (Wings Over America soundcheck)
DISC THREE
Rockshow post production mixes: (main vocal tracks)
01. Let’Em In
02. Time To Hide
03. Silly Love Songs
04. Beware My Love
Wings At The Speed Of Sound Promotional Interviews
Songs from Advance Test LP
March 20, 1976, Danish interview
05. Segment 1 /She’s My Baby
06. Segment 2/ Silly Love Songs
07. Segment 3
08. Segment 4 /Time To Hide
09. Segment 5
March 23, 1976, Danish interview
10. San Ferry Ann/ Segment 1
11. Time To Hide / Segment 2
12. Cook Of The House / Segment 3
13. Silly Love Songs / Segment 4
March 26, 1976, Capitol Radio, UK (recorded in Paris, France)
14. Intro / Let’ Em In
15. Interview /Wino Junko
16. Cook Of The House/ Interview
17. Beware My Love
18. Interview / Silly Love Songs
DISC FOUR
2001 Promotional Mixes
01. Let’ Em In (Special Remix)
02. Let’ Em In (Different Gear Remix)
03. Let’ Em In (Wingin It Mix)
Other Mixes
04. Let’ Em In /Inside Thing (Lulu Mix 2002)
05. Let’ Em In (Chris Holmes Mix 2013)
2001 Promotional Mixes
06. Silly Love Songs (Artful Dodger Mix)
07. Silly Love Songs (Loop Da Loop Main Mix)
08. Silly Love Songs (Loop Da Loop Radio Mix)
2004 Denmark Mixes
09. Silly Love Songs (Noir & Kruse Radio Edit)
10. Silly Love Songs (Noir & Kruse Extented Mix)
Other Mixes
11. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2010)
12. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2011-2012)
13. Silly Love Songs (Chris Holmes Mix 2013-2015)